大阪高等裁判所 昭和52年(う)152号 判決 1977年10月13日
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人石田好孝作成の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は検察官苅部修作成の答弁書記載のとおりであるから、これを引用する。
控訴趣意中、事実誤認の主張について
論旨は、要するに被告人は原審相被告人竹森俊夫に対しいわゆる枠積みの方法によることを指示したり、具体的な輸出方法を特定することなく、単に輸出手続をとるよう依頼したにすぎないのに、この点のみをもつて竹森俊夫との共謀を認定し、犯罪の成立を認めた原判決には事実の誤認があり破棄を免れないというのである。
よつて案ずるに、原判決挙示の関係証拠によれば、原判示第五の各事実は共謀の点を含めて優にこれを肯認することができる。すなわち、被告人は昭和三八年以来韓国船の代理店業を営む幾つかの会社の責任者として勤務し、昭和四六年一〇月ころ船舶代理店業のほか雑貨等の輸出入業を営業目的とする有限会社富士商事の代表取締役になつたものであり、同会社の主たる営業活動は船舶代理店業で韓国の海運会社数社の総代理店をしていること、被告人は昭和四五年夏ころ万博見物に来日した韓国人らから日本製農機具や電化製品等を母国に持ち帰りたい旨頼まれた際、知人の韓国向け貿易等を営む明邦産業株式会社代表取締役竹森俊夫に依頼して、外貨事情の悪い韓国向け輸出に従前から業界で脱法的に用いられているいわゆる枠積み輸出の方法、すなわち他人名義の空の輸出貨物代金前受証明書を入手してこれを自からの輸出貨物代金前受証明書として利用し代金決済につき正規の取引である標準決済方法を装つた無為替輸出を行う方法により、輸出を手がけた経験があること、本件の場合、被告人は自称木下なる韓国人或は氏名不詳の韓国人船員らから中古トラツクやブルドーザー等を韓国に搬送して欲しい旨依頼を受けると、その都度竹森の諒解をえたうえ、依頼者から一ドル当り三〇円の割合による枠代金のほか通関費用等の交付を受けると共に、依頼にかかる車両等を受取りその譲渡証その他の必要書類を預かり、他方、竹森に対しては右枠代金を交付すると共に、これら車両は被告人が代理店をしている船会社所属の韓国船に船積みを予定しているところから、竹森に対し船積みの本船名及び入出港日時をつげ、同人を介して通関業者である伊藤勝株式会社に連絡させていたこと、次に竹森は他社又はその従業員から入手していた輸出貨物代金前受証明書を持参して同書面を発行した外国為替銀行に赴き、右証明書類と共に明邦産業(株)を輸出者とする当該車両の輸出申告書(但し原判決書末尾添付の別紙一覧表その(五)番号一及び二については銀行審査に備え輸出貨物代金前受証明書記載の輸出者名と関連付けるため自社が右輸出者を代行する旨の肩書表示をも付記)を提出し、当該輸出取引につき既に標準決済方法により代金決裁がなされているように装つて虚偽の証明をし、係員をしてその旨の銀行認証をさせたうえ、右認証済みの輸出申告書等の必要書類を情を知らない前記通関業者に持参して明邦産業(株)を輸出者とする輸出通関手続を依頼し、税関の輸出許可に必要な手続を代行させていたこと、輸出許可がおり通関手続がすむと、被告人において通関費用を支払い、被告人指定の韓国船に右車両等の貨物の船積みを完了させたのち、被告人において本船貨物受取証と引換えに送荷主をいずれも明邦産業(株)とする船荷証券を発行していたこと、以上を認定できる。
右認定事実から明らかなように、被告人は韓国向け貨物の輸出に外為法の正規の取引である標準決済方法を装つた不正な輸出方法であるいわゆる枠積みの方法が行われていたこと及びその手段方法につき了知していただけでなく、竹森がいわゆる枠積み輸出を取扱う業者であることを知りながら、同人と組んで互に協力、分担してその都度枠積み輸出の方法により本件各韓国向け貨物を船積みして輸出行為を完了したことを認めるに十分であるから、被告人に共謀による無承認輸出の罪及び輸出認証手続違反の罪が成立することは明らかである。論旨は理由がない。
控訴趣意中、法令の解釈、適用の誤りの主張について
論旨は、外国為替及び外国管理法四八条及び四九条にいう「輸出しようとする者」とは、外国貿易の正常な発展を図り国際収支の均衡等を確保することを目的とする同法の立法趣旨に照らし、輸出行為の経済的効果の帰属換言すれば自己の計算において輸出行為をなす者をいうと解すべきところ、原判決は右法文の意味を「本来貨物を輸出しようとする者のほか、現実に輸出に関与するものを含む」と解したうえ、本来の輸出者に当らないのは勿論、単に輸出手続者を紹介等したに過ぎない被告人をもつて、右法文にいう「輸出しようとする者」に当ると不当に拡張して解釈し被告人を有罪とした原判決はこの点において、法律の解釈、適用を誤つた違法があり破棄を免れないというのである。
しかしながら、国際収支の均衡の維持、外国貿易及び国民経済の健全な発展をはかる等の見地から、貨物の輸出についての制限として標準外決済方法等につき通商産業大臣の承認を受けるべき義務を定めた外国為替管理法四八条、輸出貿易管理令一条ならびに輸出代金回収を確保し通貨価値の安定を図るため支払方法の証明を定めた同条四九条、同令三条等の規定の趣旨目的に、これらを潜脱するいわゆる枠積み輸出等の実態をも加味して考えるとき、同法四八条及び四九条等にいう「輸出しようとする者」とは、所論のいう意味における本来の輸出者のほか、現実に輸出に関与し貨物を輸出しようとする者、すなわちこれを標準決済方法を仮装した無為替輸出に即していうならば、特定貨物を国外に無為替で搬出する意図をもつて、標準決済方法による輸出取引を仮装して外国為替銀行の認証をえ、或は税関に対する輸出申告をなしその他右貨物の国外搬出に必要な行為の遂行に当る者をも含むと解するのが相当である。
被告人は、前認定のように、本件車両等を韓国に搬送したい旨依頼を受けるや、自社の契約船にこれらを船積し無為替輸出しようと意図し、前記竹森俊夫とその旨共謀し、同人と一体となりいわゆる枠積み輸出の方法により韓国向けに輸出したものであり、被告人らは、本来の輸出者には該当しないが、現実に右貨物の輸出に関与しこれを国外に搬出しようとした者といえるから、外国為替及び外国貿易管理法四八条、及び四九条等にいう「輸出しようとする者」に該当するものであり、被告人につき無承認輸出罪等の成立を認めた原判決には、何ら法令の解釈、適用の誤りはない。論旨は理由がない。
控訴趣意中、量刑不当の主張について<略>
よつて、刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
(矢島好信 山本久巳 久米喜三郎)